プロジェクトファシリテーション
- 作者: 白川克,関尚弘
- 出版社/メーカー: 日本経済新聞出版社
- 発売日: 2009/08/20
- メディア: 単行本
- 購入: 4人 クリック: 53回
- この商品を含むブログ (17件) を見る
プロジェクトマネジメントの本。
もうちょっと正確に言うと、ファシリテーションをプロジェクト全体に適用し、成功に漕ぎつけた業務改革プロジェクトのサクセス・ストーリー。
8/29頂いたコメントを元に記述を見直しました。
プロジェクトマネジメントの本、と呼んでしまってよいと思う。業務改革の本と呼ぶのもふさわしいかもしれない。
ファシリテーションを業務改革プロジェクトに適用し、成功をおさめた事例をコンサルとクライアントの双方の視点で語った本。
プロジェクトの全面に亘って、ファシリテーションの考えを適用して関係者を巻き込んで納得を得ていくことにより、
有期の活動であるプロジェクト自体を成功させたのはもちろん、プロジェクト仲に関係者の納得を十分に得たことが奏功して業務改革を成功させた事例である。
特徴など
この本は以下の点で特徴的である
- クライアントとコンサルの共著であり、両方の視点で書かれていること
- しかも社名、個人名ともに実名であること。(実名を出せるほど、強い信頼関係を築けたということですね)
- ドラマチックな成功事例や失敗事例でなく、「当たり前のこと」を着実にやり遂げた事例であること
- ファシリテートを随所に用い、顧客を最大限に巻き込むマネジメントスタイルであること
- とにかく実直であること
ストーリー仕立てであるため、アマゾンの説明では、実は少し警戒していた。海外もののストーリー仕立てのビジネス書に少し辟易していたからだ。
しかし、この本がストーリー仕立てであるには意味がある。どのようなツールがどのような必然性を以って使われたかを語るには、プロジェクト内のコンテキストを知る必要があり、それにはストーリー仕立てが向いているからだ。
ただ、「ストーリー仕立てのビジネス本は読まない」という人の話をたまに聞くので、この本は説明文で少し損をしているかもしれない。。
決して華々しい成功本ではない。
プロジェクトは緻密にマネジメントされているわけでもなく、目から鱗のファシリテーション・ツールが使われているわけでもない。もちろん必要なツール群は持っているものの、愚直なほど原則を守り、顧客やプロジェクトの特性に合わせて、どうしたら成功に導けるか考え抜き、実践した経過と結果が淡々と綴られている。
実直な分、普段の業務に取り入れやすいのかな、と思う。プロジェクトにより個別なので、やり方そのまま真似するわけにはいかないが、考え方やスタイルを取り入れ易いかと。
ファシリテーションのポイントはシンプル。以下を実直に守る。
- 見える化により情報を共有
- ⇒ これにより、関係者を次々と巻き込む
- ⇒ これにより、納得性を得る
- 顧客自ら主体的に決めてもらう
- 情報を整理し、流れを作る(整える)
読んで考えたことを書き連ねる
この本を読んでいて、つらつらと考えたことを書き連ねる。さて、ここからはじゃんじゃん脱線しますよ!
マネジメントにはいくつかのスタイルがある
プロジェクトをマネジメントする(というより、「成功させる」のほうが適当か・・)スタイルとして、いくつかあるな、というのを感じている。
- PMが緻密に計画し、計画との差異をコントロールしていくスタイル
- PMがリーダーシップを発揮し、メンバーをひっぱっていくスタイル
- PMが決め、ぐんぐんひっぱる
- エンパワーメントする
- チームメンバーが力を発揮できるよう、PMが支えるスタイル
この書籍のプロジェクトでは、言うまでもなく3つめにフォーカスしている。PM系の研修では1つめを学ぶのかな、と思う(私が受けた研修などはそう)。2つめはPMの特性として1に加えて必要だと言われているものだ。
1つめは、古典的と批判されることがあり、2、3と番号が大きくなるに従って、新しい考えであるともてはやされているように感じる。しかし、どれがいいというものでなく、プロジェクトの性格により向き不向きは異なるため、3つのスタイルが適切にミックスされる。例えば、正確な見積もりが必要であったり、(正確な見積もりが可能であったり)、定量的な品質の計測が必要であるようなものは、1のスタイルが向いていると思うし、未知のもの(新しいサービス、新しい業務 etc..)を作っていくようなプロジェクトであれば、3のスタイルが向いていると思う。
もちろん、システムの目的と用途が時代とともに変わっていくに従って、3のスタイルに向かってきているのかな、というのは感じている。
プロジェクトが成果を出すためには、顧客がどれだけ主体的になるかがキー
プロジェクトの完成は、ゴールではない。
プロジェクトが完了し、新しい業務システムや新しいITシステムが稼働した後は、顧客はそれらを利用してビジネス上の目的を達成しなくてはいけない。
その意味では、プロジェクト完了は顧客にとっての新しいスタートと言える。
「スタート」後は、顧客がプロジェクトの成果を使い尽くし、改善を継続していくことが必要である。
このため、顧客の組織内で目的と動機が継続することが必要だ。
この書籍の例では、目的と動機は最初から顧客内に十分にあった。
プロジェクトを頓挫させずに完了に漕ぎつけ、動機を継続させるにはファシリテーションが必要だったと思う。
プロジェクトと定常業務の違い
プロジェクトは、 「有期で独創性のあるものを作る活動」 である。
よく、プロジェクトに対して定常業務という言葉が使われる。
定常業務という言葉が自己批判的な意味合いを持っているのかどうか実はちょっと分からないのだが、
どの業務も独創的で改善していく余地があるものであるため、プロジェクトと定常業務の違いは「有期か否か」しかないのではないかと考えた次第。