会社のITはエンジニアに任せるな

最近、備忘録はほぼ EverNote だったのではてダを離れていたけど、久しぶりにメモを書いてみる。書評と付けたが、読みながら考えたことを書き連ねるメモである。


この本は、ITに詳しくない(多分苦手意識のある)経営者/業務部門の人向けに、ITとの付き合い方を説く本。逆の立場(ITの提供者の立場)から見ると、ITの利用者に寄り添って、利用者が必要としているITを提供することをきちんと考えようね、という本。

タイトルは少し刺激的なのだが、「任せるな」とは「任せきりにするな/我がこととして考えろ」という意味のようなので、実はマイルドなタイトルなのかもしれない。ざっくり説明してしまうと、経営/業務部門/IT部門がビジネスの中でのITの価値を考え、個々の企業の強みを生み出すプラント型システム(基幹システム)を作っていくことが必要、というストーリー。

ビジネスにとって、ITは欠かせない存在になっている点は否定できない。あらゆるプロセスやコミュニケーションにITが浸透しているので、以前のようにナントカ管理システムをパッチワークのように繋ぎあわせて業務プロセスをこなすのでは非効率だし、スピードにも対応できない。プロセスの秀逸さがビジネスの品質(価値)につながる。秀逸なプロセスにはよくできた組織と秀逸なITが寄与する。つまり、ビジネスでどんな品質(価値)を提供するか、そのためにどんな業務プロセスが必要か、どんな組織が必要か、どんなITが必要か、ビジネスに関わる全ての人がじっくり考えていく必要がある。


確かにそうなのだ。
しかし、読みながら今の自分自身とのギャップを感じる点があった。


この本で中心として扱う "IT" は基幹系システムであるために、ITは取り扱いに注意が必要なものであり、十分な時間をかけて作るものである。こういうタイプのITはビジネスで非常に重要な位置付けを占めるし、先に述べたように、秀逸なプロセスを生み出す原動力だ。
しかし、このように大切に生み出し、大切に守り育てていくものであるために、ITを変化させようとする動きは緩やかになり、業務プロセスを変更する際の足枷になるおそれがあるのではないか。自社のプロセス、自社の顧客、自社の組織に最適化されたシステムであるために、企業の合併、組織の見直し、市場の変化に合わせてビジネススタイルを変化させることが難しくなるのではないか。
できあいのパーツ(ナントカ管理システム群や、システム部品*)を組み合わせたとしても、その組み合わせ方や、組み合わせたことによって新たな価値を提供できるのではないか。可能な範囲で既製品を活用することで変化のスピードを早くできるとしたら、それは大きなメリットなのではないか。*ところで、SOAって、あまり聞かなくなったよね。。

もちろん、企業の規模によるし、企業が扱う製品やサービスの種類によるから一概には言えないが、マスから個に極端にシフトしている現在では、変化にどれだけ対応できるかがビジネスの価値を決めていくように思う。そうである以上、その変化を経営/業務/ITがきちんと認識し、方向を定めてビジネスのあり方を変えていく必要があるし、それに合わせたIT(や道具立て)は必要だ。ただし、用意すべき IT は個々のビジネスや組織に最適化されたものではないかもしれないし、重厚長大である必要はない。もっと身近で、様々な活動にITが融合している姿が望まれるのではないか。



私事だが、数年前に SI の終焉が囁かれ始めた頃、こういう疑問をもって中堅規模のSI企業を退職し、転職後、独立をした。
コンサルティングしてきっちりとしたビジネスプロセスを定義し、顧客の望み通りの IT を用意することにより顧客の足枷を大きくしているのではないか、顧客の望み通りに業務の標準化を進めることにより動きの遅く「考えない」組織作りに加担しているのではないか、という思いが大きくなったのだ。ITの価値とは何なのか。ITが必要な箇所はそれほど多くないのではないかと感じた。その後、IT の利用者の近くでIT施策の効果のフィードバックを受け、コンシューマとしてシステムを利用してよさを実感することで、ITは実は役に立つのかもしれないと思い直した。


結局のところ、IT は、従来できなかったことをできるようにするツールである。しかも、非常に柔軟性のあるツールである。
質でも、量でも、新しいアイディアでも、これまで諦めていたことができるようになる可能性がある。また、これまでなかった発想を生み出すきっかけとなり、新しい価値に気づかせてくれる。発展途中のツールかもしれないが、それぞれの段階で使いようによってビジネスは面白くなり、個人の体験も豊かになるはずなのだ。何のために、どんなものが欲しいのか、何ができるのか、じっくり話して練りあげてみると、それだけでも面白いはずだ。